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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)12561号 判決

原告

株式会社丸運

右代表者

藤岡勘三郎

右訴訟代理人

小笠原市男

被告

株式会社山善

右代表者

山本猛夫

右代理人支配人

成清久昭

被告

半田機械器具株式会社

右代表者

半田トミ

被告ら訴訟代理人

小原美直

主文

一  被告株式会社山善は原告に対し金八万九六二〇円及びこれに対する昭和五四年一月一一日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告半田機械器具株式会社は原告に対し金五四万〇六一〇円及びこれに対する右同日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  第一、二項に限り仮りに執行することができる。

事実《省略》

理由

一原告主張の請求原因(一)項の事実は当事者間に争いがない。

(〈省略〉)

したがつて、物品運送業者たる原告は、昭和五三年一月二五日までに荷送人谷口製作所に対し本件各運送品の運送賃として金八万九六二〇円(荷受人被告山善関係)及び金五四万〇六一〇円(荷受人被告半田機械器具)の各債権を取得したものであり、また商法五八三条二項によれば荷受人たる被告らは原告に対しそれぞれ右関係運送賃を支払うべき義務を負担するに至つたものである。

二本件運送品は、被告らが荷送人谷口製作所から運送賃を含めて計算した代金をもつてそれぞれ買受けたものであることは当事者間に争いがなく、したがつて荷受人と荷送人との間では運送賃は荷送人が負担する約束であつたことが推認できる。しかし、それだけでは荷受人たる被告らが商法五八三条二項による運送賃支払義務を免れる理由にはならない。

三〈省略〉

四本件運送契約は運送人たる原告と荷送人たる谷口製作所との間に締結され荷受人たる被告らは契約の当事者ではないのであるから、原告が先ず荷送人に運送賃の支払を請求するのは通常かつ当然のことであり、運送人が荷受人に対し、運送品を引渡した時点において、直ちに運送賃の支払を請求せず、またその時点での請求をする意思がなかつたとしても、商法の前記条項による請求債権を放棄したものと認めることはできないし、一般の商取引において売主が運送賃を負担する約束で物品売買がなされるのが通常で本件運送品売買についても運送賃売主(荷送人)負担の約の取引であることを運送人原告が熟知していたとしても、これより運送品引渡の時点で荷受人(被告ら)と運送人(原告)との間において商法五八三条二項の適用を排除する黙示の合意がなされたものと推認することはできない。

五被告ら答弁(三)項の(4)の谷口製作所との間の債権放棄約束の事実は、当事者間に争いがない。

しかし、運送人原告の荷送人谷口製作所に対する運送賃請求債権は右両者間に締結された運送契約により発生したものであり、原告の荷受人被告らに対する本訴請求債権は被告らが運送品を原告から受取つたことを原因として商法五八三条二項の規定により発生したものであるから、原告が前者の債権を放棄したからといつて後者の債権が消滅する理由はない。

運送品が到達した後は荷受人において荷送人の運送契約上の権利を取得することを定める同条一項の規定の趣旨をも考えれば、運送業者による物品運送の法律関係においては、運送賃その他の運送費用の回収に関する危険については、運送人荷受人間では荷受人が危険を負担すべく運送人にはこれを負担させないこととする(運送費用については荷送人荷受人間において最終的に解決させる)のが法の趣旨とするところと解すべきである。

交通、通信の発達した現代においても、右の法制の趣旨は必ずしも不当であるとはいえず、運送人が荷送人荷受人間の取引内容を知つていたと否とにかかわらず、荷送人から運送賃を回収できなくなつた運送人が商法五八三条二項を根拠として荷受人に運送賃の支払を請求することは、信義則にも社会正義にも反するものではないし、権利の濫用と目すべきものでもない。

六よつて、被告らの抗弁はいずれも理由がなく、原告の被告両名に対する本訴各請求は理由があるから、これを正当として認容すべきものとし、民訴法八九条、九三条一項本文、一九六条に則り、主文のとおり判決する。

(渡辺惺)

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